十年目の3.11
石孫のHP等でおなじみの写真です。
蔵の写真というと、こちらを使って貰うことが多く、石孫の代表写真でもあります。
この蔵は通称「一号蔵」。
十年前の3月11日、崩壊し、今はありません。
石孫の醤油の仕込み蔵で、貴重な天然杉桶を沢山抱えた大事な蔵でした。
あの年は雪が今年のように非常に多くて、雪下ろしばかりで仕込みもろくに出来ないような冬を過ごしていました。
一号蔵はとても古くて一番大きな蔵、三年ほど前に宮城・秋田の内陸部に起きた大きな地震で既に傷んでいました。
稀に見る積雪と、日本のほぼ半分を揺るがす大地震に老体は耐えられませんでした。
蔵の入り口から見た、直後の写真。
これは私たちでなければ撮れなかった写真だと思っています。
あの日、社長は県外へ出ていて帰路を絶たれ帰ってこれなくなっていました。
社長が帰ったら、その間の状況を伝えなければ、と撮り続けた写真はなかなかの枚数です。
はじめは雪と瓦礫で状態が分からなかったのですが、沢山の皆さんに尽力頂き片付いていくと、木桶の多くがそのまま残っていることが分かりました。
先に崩れた壁が蓋のようになり、桶を守っているような状態。助けられる”もろみ”が残っていると分かると、蔵人の顔にも明るさが戻り、諦めないで進む力となりました。
物置のような使い方になっていた隣の二号蔵を改修、無事だった桶を戻し、新たな醤油醸造蔵として再生するため、大工さんも急ピッチで仕事を進めてくれました。
巨大な木桶を、いよいよ新たに生まれ変わった二号蔵に搬入するため、クレーンで吊り上げ、フォークリフトへ乗せる作業。
「再び始められる」喜びで、嬉しくて仕方がありませんでした。
百年もの間、一号蔵でじっと鎮座していた巨大木桶。…まさか宙吊りにされるだなんて、思いもしなかっただろうと思えば面白くて笑ってしまったことを覚えています。
あれから十年、更に改修を行い、蔵見学のコースに入っている二号蔵。
一号蔵を失わなければ、それまで通り、なんの心配もなく仕事をしていたかも知れません。
しかし、失ったからこそ生まれ変わることも出来たと、今ではそう思っています。
「伝統を後世に伝えることも仕事のひとつ」
石孫で度々お伝えしている理念ですが、守り続けるために、改新することも必要であると思っています。
当時を知る社員は半分ほどになりました。
しかし、続けている仕事は震災前も震災後なく、それどころか創業した165年前から同じ事を続けていて、これからもそれは変わりません。
石孫が失ったものは蔵でしたが、太平洋に面した地域が失ったのは大切な人の命でした。
生活の場、ふるさとの象徴、憧れ、そういったものであったはずの故郷の海が豹変し襲いかかってきたなんて。
それでもその海と共に生きなければいけない皆さまが沢山いて、そこで生き続けていくために未だに努力が続いています。
十年という歳月が「一区切り」などというものではない方々が沢山いるのだということを忘れてはいけないと思っています。
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この先は、当時書き記していた石孫のブログの記事です。
忘れないためにここへ残そうと思います。
「石孫は大丈夫です!」2011.03.18
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=199
「一号蔵顛末 前編」2011.04.15
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=203
「一号蔵顛末 中編」2011.04.18
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=204
「一号蔵顛末 後編」2011.04.20
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=206
「石孫六代目、八木澤商店さんへの思い」2011.05.11
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=209
「百歳の桶、空を飛ぶ。」2011.06.10
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=211
「震災の最中のホッとした思い出」2011.06.17
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=212
「二号蔵と蔵付き酵母」2011.09.16
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=219
「暗い空に…虹×2」2011.10.25
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=220
「新旧!」2011.11.02
http://kuranoshiki.ishimago.main.jp/?eid=221
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